∴ 勲章

ばたばたと忙しかった一週間の最終日は、斎場（火葬場）勤務だった。

火葬場といっても火葬の手伝いではなく、火葬場の敷地に建てられた無料式場でのお手伝い。

運営は、いつものようにないない館。

前回の斎場勤務で、ないない館のメガネくんを真面目に叱ってしまったこともあり、今回は誰が担当だろうと思っていたら、やっぱりメガネ。

がんばろうね、メガネ。


あがり症のメガネらしく、お寺さんから指示された焼香のタイミングはすでに頭からぶっ飛んでいて、開式早々いきなり焼香を回したのにはほんのちょっとびっくりしたけど、遅かれ早かれどうせ回すもんだし・・って思っていたら、数ヶ月前に入社したばかりのマスタに式場裏に連れて行かれ、おもいっきりデコピンくらわされていた。

がんばろうね、メガネ。。。


出棺時、先導のために別室にいたお寺さんを呼びにいくと、
胸に大きな勲章をつけ、ほんのちょっと斜めな体に顔だけ正面を向いた笑顔の写真を鞄の中から取り出して

「これ私。天皇陛下から褒賞もらってね」　　
「わあ～、それはすごいですねえ・・・。　それでは出棺のお時間ですので・・」　

「これが勲章。こんな勲章つけた坊さん、他に来る？」
「いやいや～　なかなか。。。　　あのぉ～　先導を・・　」　（＾＾；）

どんなに焦っていても自分の世界に突入しているお寺さんは動こうとせず、その後も桜田門やら皇居やらの話が続き、なかなか現れないわさびと坊さんを呼びにマスタがやってきて
「それでは先導お願いします」と、きっぱり！

「ああ！ちょっとちょっと、これ私。　天皇陛下から・・　」　
「ほお～、これはすごい。。。　」　　今度はマスタが捕まった。

１対１だとちょっと弱いけど、２対１になればこっちのもん。
そんなに写真を手放したくないなら、ずっと持っとけ！ってことで、マスタにどーのこーの話しかけているうちにばっちし鞄を奪い、「はいはい、それでは先導行きますよ～。　はい立って！」

ようやく連れ出し成功。


目の前の火葬場から親族が戻ってくる数分の間にばたばたと式場を片付け、食事ができる状態にしていると、一旦帰宅するためタクシーに乗り込んだ坊さんがタクシーの中からダイナマイトれこちゃんを見つけ、手招きしながら「あんた、写真見た？」

「は・・　はいっ！！」　　うそつけ！
　

そして仕上げ法要。　

再びやってきたお寺さんにお茶を持っていくと、一回り大きく引き伸ばされたさっきの写真が、テーブルの上に準備されていた。