∴ スミ ミス

椅子の背もたれに顔をぶつけ、前歯がぐらぐらしとります。


通夜式ギリギリまで揃わないお供えの花や籠盛りに、薬座さん達もイライラ。
たまに巻き舌で怒鳴り声が聞こえる。

そりゃいきなりこんなにお供え（かるく１５０～２００基はあった）の注文が入るなんて思うとらんもの。　無理だって・・なんてことは言えるわけもなく、ただただできることをするのみ。

「札つけますね」

こんな時、小さいのがちょこちょこと高い位置にある花に一生懸命背伸びして名前の書かれた札をつけていると、「よっしゃ、手伝うたるわ」ってなるのである。　小さいってお得。


ようやく通夜式が始まる・・と思ったら、
いつもの回し焼香から立ち焼香へと変更になったらしい。

式場内を任されていたですね王子は、すでに薬座さんから

「こんなんで間に合うんか？　時間見てみぃわれわれ～」　などと怒られ続け、放心状態。
何を言うても頭には入っとらん。


焼香が始っても、香炉は二つあるのにいつまでたっても一人一人案内してるですね王子・・・。

あのバカ！！　そんなことしてたら１時間たっても終わらんぞ。


任せなさい。


ですねと交代し、そこから先は一列づつ誘導して二つの香炉でスムーズに流れだした。

わさびだって、だてにあちこちの式場回ってるわけじゃないのよ。
多少のドタバタも経験してるし、これくらいの人数ならなんぼでもきれいに流せるわ。
ちゃーんと見とき。

その時、焼香を終えて席に戻ろうとしたちょっと強面の男性がわさびの腕をガシッと掴んだ。

「お姉ちゃん・・　炭の火消えとるよ」