∴ くせもの

亡くなられた方の名前が書かれている、式場入り口にでーんと置かれた看板・・
喪主さんの名前になっとったぞー！



とある式場ロビーには、ファミリーレストランでよく見かけるドリンクバーのような場所がある。
しかもカウンター付き。

もちろん全品無料で、わさび他式場関係者も人目を気にしながら時々頂いている。
カプチーノがお薦め。

一応「セルフ」の張り紙はあるけど、なるべくスタッフがカウンター内に入って対応することになっていて、カウンターキッチンのようになっているこの場所で、寺のお茶出し準備も行っている。

いつものようにカウンターの内側にお寺さん用のおしぼり置き、湯のみ、寺菓子２つをセットして、開式前、ロビーでくつろぐ親族さん達にコーヒーやジュースを入れていると、一人のおじさんがカウンターにやってきた。

「コーヒーもらえる？」　


コーヒーを入れて差し出しても、カウンターから離れようとしないおじさんは、

「やっぱり、若いお姉ちゃんが入れてくれたコーヒーは美味しいなあ」

「そうでしょ。　ぎゃははは」　

紙コップに入ったコーヒーをカウンターに置いたまま、その後もずっとおじさんは喋り続けた。

長年公務員として働き、部下もたくさんいたらしい。
もちろん今は定年されて年金生活なのだとか。

次々とやってくる方達の飲み物を入れながら、おじさんの耳と鼻から飛び出た耳毛と鼻毛がみょうに気になりながらも長い長い話を聞いていたら、自分はいろんな芸ができると言いだした。

「へえ～。器用なんですねえ」

するとおじさんは、カウンターの向こうからす～っと手を伸ばし、お寺さん用にセットされた、まだ中身の入っていない湯のみを取ってカウンターの上に置き、蓋を取って分厚いおおきな掌をべた～っと湯のみの口に押し付けた。

な・・なんてことを・・　汚いじゃないか！！


一生懸命手に湯のみをくっつけようとしているおじさん。　　

周りにいた数人の人達と見ていたら、ちょっとだけ掌にくっついて、一瞬湯のみが宙に浮いた。

「すごいですねえ　（湯のみを返せ！）　」　　　　


その後式場の方がばたばたし始めたのでカウンターを離れ、お寺さんが来られたので寺部屋まで案内してカウンターに戻ると、カウンターの上にはいい加減遊ばれた湯のみと蓋が転がっていた。

戸棚から違う湯のみを取り出し、お茶を入れながらふと見たら、

２つあった寺饅頭の１つが消えているではないかあのじじいーーーー！！ヽ(｀Д´)ﾉ